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シナマケミートアップ #9 レポート – 生成AIが変える"つくる"のかたち

「シナマケミートアップ」は、ITやクリエイティブ好きな人が知識や経験をシェアし、交流する場です。

2025年11月、シナマケミートアップ #9が開催されました!今回のテーマは「AI × クリエイティブ」です。


イベント概要

  • イベント名: 生成AIが変える"つくる"のかたち AI勉強会【シナマケミートアップ #9】
  • 開催日: 2025年11月19日(水)
  • 会場: シナジーマーケティング株式会社 大阪オフィス
  • テーマ: AI × クリエイティブ

生成AIや画像生成、AI活用による開発・表現について知識を共有し、実践的な知見を深めることを目的としたイベントです。今回は4名の登壇者がそれぞれ異なるアプローチでAI活用の実践例を披露しました。


LT 1: n8nによるAIワークフロー開発実践

トップバッターは、シナジーマーケティングの西尾 義英さん。バックエンド系エンジニアとして長く活躍し、最近はAIを使ったプロダクト開発のPoCや検証を担当しています。

西尾さんが紹介したのは、n8nを使ったAIエージェント組み込みワークフローの開発実践です。作成したのは、研修・教育系サービスの受講生からのよくある質問に応答するエージェント。受講者を選択すると背景情報が読み込まれ、Google広告に関する質問などに適切な回答を生成します。

工夫したポイントとして、質問の意図を推測し、言葉足らずな部分を補完する機能を実装。「誤解していることや心配事を推測してあげて、それに沿った回答を作る」という仕組みが特徴的でした。

このシステムは複数のワークフローで構成されており、ホーム画面の表示、結果の表示、回答の生成がそれぞれ別のワークフローで動いています。また、n8nの標準機能ではなくHTMLやJavaScriptを書いて動かす必要があり、そこが大変だったとのこと。

n8nで複雑なことをしようとすると、HTMLやJavaScriptのコードが必要になり、バージョン管理も難しくなる問題に直面。また、公式のAIワークフロービルダーはクラウド版のみで、セルフホスト版では使えません。そこでオフラインで開発し、n8n CLIで同期するという開発環境を構築しました。

  • JSONではなくYAML形式で編集することで可読性を向上
  • HTMLやJavaScriptを別ファイルに切り出して管理
  • Makefileで変換・同期を自動化

「ビルドシステム自体もCursorに作らせた」とのこと。ただし、n8nの公式情報がまだ不十分なため、AIに完璧なコードを書かせることは難しく、結局手作業も必要だと語っていました。

Q&Aでは、JSONワークフローの可読性の低さに対し、YAMLにすることで改行含めた表示が可能になり楽になったと説明がありました。


LT 2: AI × クリエイティブ – 過去の自分で訓練したAIコピー

2人目は、マイクロソフトで課金サポートを担当する中林さん。元小説家・劇団主催という異色の経歴の持ち主で、高校生から大学生の頃にメディアワークスからライトノベルを数冊出版していたそうです。

中林さんは冒頭で「クリエイティブとは何か?」という根本的な問いを投げかけました。「AIが作り出すものは学習データの組み合わせにすぎない。それを創造的と言えるのか?」と問いかけつつ、「新しいものを作ること、人の心に響くものを形にすること、その両方を含むのがクリエイティブ」という定義を示し、価値を決めるのは人間であると強調していました。

今回のLTで紹介されたのは、過去の自分の文章で訓練したAIモデルの構築。自分の文章の癖を再現できるようになったとのこと。

技術的なポイントとしては、

  • 英語でプロンプトを書く:LLMは英語ベースのため、日本語で質問すると内部で翻訳処理が入り精度が下がるという推測
  • 評価と強化:生成物を100点から0点でスコアリングし、良いものを学習データとして追加してAIコピーを強化

「AIの価値を決めるのは人間であること。これを忘れなければ、AIは私たちの最高のパートナーになる」という言葉が印象的でした。道具に使われないよう、あくまでパートナー・道具として活用していこう、というメッセージで締めくくられました。


LT 3: 安いAIで小説を要約してみた

3人目は鰺坂 誠也さん。フルスタックエンジニアで、好きなものは猫とコンピューター、嫌いなものはグローバルにインストールするNPMモジュールだそうです。

鰺坂さんの課題は、読書中に「この登場人物、誰だっけ?」と思い出せなくなること。また、読了後もタイトルを見ても内容を思い出せないという悩みから、AIで小説を要約して思い出すきっかけを作るプロジェクトに取り組みました。

OCR処理にはYomiTokuという日本語の文書解析に特化したAI OCRライブラリを使用。 縦書き・横書きの自動判別、ページ番号やヘッダーの除外など高性能で、Google Cloud Vision APIの約100分の1のコストで処理できるとのこと。

安価なモデルを使いたいがコンテキストウィンドウが小さいという課題に対し、分割して処理するアプローチを採用。

要約処理の3ステップ

  1. チャンク化:50ページずつに分割
  2. チャンクごとに要約:JSON形式で構造化出力
  3. 統合:全チャンクの要約を統合して作品全体の概要を生成

チャンク処理では、前のチャンクの要約と次のチャンクを合わせて処理することで、文脈を維持しながら要約を生成。コストは1000ページで約10円という驚異的な安さです。

良い点

  • 登場人物の情報整理に最適
  • 途中の要約には先の展開が含まれないためネタバレ回避可能
  • 後で思い出すきっかけとして有効

課題

  • 短編集は登場人物が混在してしまう
  • 未確定のものを確定的に書いてしまう
  • 多重人格キャラが双子扱いになるなど誤認識

実例として夏目漱石の『こころ』の要約結果が紹介されました。

Q&Aでは、GPUはAMDの24GB VRAMモデルを使用しており、NVIDIA より VRAMあたりのコスパが倍程度良いとのことでした。1400ページで40分ほどかかるそうです。

登壇資料: AIで小説を要約してみた


LT 4: 生成AI活用推進のために工夫したこと

ラストは、株式会社ネクストビートの水島さん。テクノロジーエヴァンジェリストとして社内の生産性向上、特に生成AI活用推進を担当しています。趣味はプログラミング言語作り、小説執筆、競プロとのこと。

ネクストビートは、エンジニアだけでなく非エンジニア層のAI活用を重要視しています。実施した施策は以下の5つ

  1. Slackチャンネルの作成:全社員強制参加の「生成AI活用チャンネル」
  2. Slackチャットボットの整備:ChatGPTなどの汎用サービスが使いにくい人向けに、Slack上で使えるボットを提供
  3. 定期的な情報共有:AIは数ヶ月で陳腐化するため、最新情報をプッシュ
  4. マニュアル整備:使い方が分からない人向けに詳細なマニュアルを用意(GeminiでGemを作る方法など)
  5. 定期アンケート:毎月のAI利用状況を調査

成果(2025年10月時点)

  • 約8割の社員が2〜3日に1回以上AIを利用
  • 週あたり業務削減:平均1〜2時間(特にエンジニア層でGitHub Copilotの効果大)

今後の展望として、質問用・生成用などでAIを振り分けるルーティング機能の実装、プロンプトエンジニアリング講座の実施を検討中。効果測定の精度向上も課題として挙げられていました。

Q&Aでは、非エンジニア層に使ってもらうコツとして「こまめに情報プッシュする」「単機能なボット形式にして障壁を下げる」という具体的なアドバイスがありました。「どう使っていいか分からない」という障壁を取り除くことがポイントだそうです。


懇親会・クロージング

LT終了後は懇親会へ。AI活用の具体的な方法や、それぞれの現場での課題など、活発な議論が交わされていました。

次回のシナマケミートアップは12月18日に「ゆるっと振り返り会」として開催予定です。


まとめ

今回の「AI × クリエイティブ」をテーマにしたミートアップでは、ワークフロー開発、AI訓練、要約システム、社内推進と、4つの異なる生成AI活用方法が紹介されました。

  • n8nでAIエージェントを組み込んだワークフロー開発
  • 過去の自分の文章で訓練したAIコピーの構築
  • 安価なモデルでの小説要約システム
  • 非エンジニア層へのAI活用推進施策

今回のLTで印象的だったのは、登壇者の多くが「小説」でつながっていたこと。元小説家の中林さん、小説要約システムを開発した鰺坂さん、趣味で小説を書いている水島さん。偶然とはいえ、AI × クリエイティブというテーマにふさわしい顔ぶれが集まりました。

登壇者の皆様、そしてご参加いただいた皆様、本当にありがとうございました!

次回のシナマケミートアップも、どうぞお楽しみに!

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hiraoku

暇があったらクライミングしているフロントエンドエンジニアです。

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