マネージャーとして1on1で報告や相談を聞いたり、サービスの課題整理をしたりする際には「事実」と「主観」に分解するということを常に意識しています。「事実」と「主観」に分解するという観点はご存知の方も多いと思いますが、実際の1on1などで話を聞くともう少し分解して考えた方が良いように思うことがあります。今回は一度「事実」と「主観」に分けたあとにもう一歩分解するために考えていることをご紹介します。
それは誰?
サービスや業務の課題を考えるときに情報を整理しますよね。
たとえば「運用と開発の連携がうまくいかなくて、営業から取引先への報告が遅れてしまった」という状況に対して、業務フローの見直しをすることになったとします。
まずは業務フローを整理するために次のように登場人物を書き出していきます。
登場人物
- 取引先
- 営業
- 運用
- 開発
一段階目としては十分ですが、このまま「どう改善する?」に入ってしまうと議論が詰まってしまいがちです。 そこで登場人物を「役割」から「実像」に置き換えて考えてみます。
(役割) → (実像)
- 取引先 → りんご社(頻繁に取引)、ばなな社(年1,2回の取引)
- 営業 → 営業Aさん(ベテラン)、営業Bさん(新人)
- 運用 → 運用Lさん(ベテラン)、運用Mさん(先月営業から異動)、運用Nさん(新人)
- 開発 → 開発Xさん(ベテラン)、開発Yさん(中堅)
この「役割」から「実像」への置き換えによって、「事実」と「主観」を少し分解していることに気づきましたか?
ここでは「運用Mさん(先月営業から異動)」と「開発Yさん(中堅)」の連携がうまくいっていないというのが「事実」だったとします。置き換えずに「運用と開発の連携がうまくいかない」という「役割」で捉えてしまうと、「運用Lさん(ベテラン)」と「開発Xさん(ベテラン)」の連携がうまくいっていないという「事実」ではない「主観」が含まれてしまいます。
運用 | 開発 | 事実/主観 |
---|---|---|
運用Lさん(ベテラン) | 開発Xさん(ベテラン) | 主観 |
運用Mさん(先月営業から異動) | 開発Xさん(ベテラン) | 主観 |
運用Nさん(新人) | 開発Xさん(ベテラン) | 主観 |
運用Lさん(ベテラン) | 開発Yさん(中堅) | 事実 |
運用Mさん(先月営業から異動) | 開発Yさん(中堅) | 主観 |
運用Nさん(新人) | 開発Yさん(中堅) | 主観 |
そんなの当たり前でしょうという内容なのですが、本腰を入れて課題整理しようとすると無意識に一般化して考えてしまいがちです。そして何か発言する前に無意識に一般化して話そうとするため、当たり前の話ばかりになってしまい議論が詰まってしまいます。「実像」まで分解することで無理に一般化せずに「事実」をそのまま話せばよいので発言もしやすくなり良い議論になります。
実像まで分解することで解決すべき課題が見えてきそうではないですか?
どう分解するか
では、実際の1on1やミーティングの中でどのようにこの置き換えをしているのかをご紹介します。 まずはこちらの会話をお読みください。
まず最初に、営業から運用にレポート作成の依頼をします。と。
たとえば営業Aさん(ベテラン)から運用Lさん(ベテラン)に依頼をするとします。
じゃあこの依頼をよくするのは誰ですか?
では、営業Bさん(新人)から運用Lさん(ベテラン)に依頼をしました。次に、運用Lさん(ベテラン)から開発Xさん(ベテラン)にデータ抽出を依頼します、と。その次は、開発X(ベテラン)から運用Lさん(ベテラン)に抽出したデータを渡して、運用Lさん(ベテラン)がレポートにまとめて営業Bさん(新人)に渡して、営業Bさん(新人)が確認したあとに取引先りんご社(頻繁に取引)へ送付して終わりですね。
今回の課題の運用と開発の連携がうまくいっていない、というのは
運用Lさん(ベテラン)と開発Xさん(ベテラン)の間で連携がうまくいっていないということですか?
いかがでしたか。それではどこで置き換えをしているのか見ていきます。
まず冒頭で「役割」から「実像」に置き換えています。
まず最初に、営業から運用にレポート作成の依頼をします。と。
たとえば営業Aさん(ベテラン)から運用Lさん(ベテラン)に依頼をするとします。
自分の理解のための確認を始めることで、自分を教えてもらう人、メンバーを教える人に位置づけます。ペアプログラミングでいうところのドライバーとナビゲーターですね。そして、仮で「実像」に置き換えながら、メンバーに間違いを訂正してもらいながら確認を進めていきます。この仮置きして訂正してもらうという過程でメンバーに「事実」と「主観」を選り分けていってもらいます。
中盤でも改めて「役割」から「実像」に置き換えています。
今回の課題の運用と開発の連携がうまくいっていない、というのは
運用Lさん(ベテラン)と開発Xさん(ベテラン)の間で連携がうまくいっていないということですか?
仮置きした「実像」が間違っていないかつ問題がない場合には、話している途中にメンバーによる訂正もないままフローの確認が終わってしまいます。しかし実際には課題があるはずなので、改めて「役割」から「実像」への置き換えをすることで「事実」と「主観」が無意識に混ざっていることに気づくことができます。
方法のまとめ
- 業務フローの入り口で「実像」を仮置きする
- 自身がドライバー、メンバーがナビゲーターで業務フローを確認していく
- もともとの課題に立ち戻って「役割」と「実像」を置き換えて矛盾がないか確認する
私はこの方法を好んでよく使っています。この方法の良いところは すべての状況を知らなくてもいい塩梅で分解できる という点です。最初からすべての「役割」を「実像」に置き換えようとすると、細緻かつ網羅的にしようという思考になってしまいがちです。課題の文脈によって必要となる「実像」の濃淡がきっとあるはずなので、主軸となる「実像」を認識して「事実」と「主観」を分解することで解くべき課題を導きやすくすることが必要だと思います。それにはこの方法がちょうどいいと感じています。
おわりに
今回は「事実」と「主観」をもう一歩分解するために「誰」に着目しました。 他にもいろいろな着目点で「事実」と「主観」を分解できると思います。良い分解の仕方があればぜひ教えてください。